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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(あ)470号 判決 1961年1月13日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人上竹清志の弁護人田中伊之助の上告趣意は事実誤認、単なる法令違反の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人大井兼次、同草野透、同隅部正人の弁護人後藤英橘の上告趣意第一点一は違憲をいうが、異性間の情交も賄賂の目的物となり得ることは夙に判例の示すところであり(大審院大正四年七月九日判決、刑録二一輯九九〇頁以下)、現在これを変更するの必要を認めない。また原判決によると、被告人大井兼次、同草野透は松元道生等より判示婦女との情交を賄賂として受けたというのであるから、被告人等が右婦女との情交を賄賂の目的物として受けることがその婦女の人格を無視することになるとしても、かかる被告人等の行為につき被告人等に収賄罪の刑責を問うことは何等所論婦女の基本的人権に関するところはないから、所論違憲の主張は前提を欠く。

同第一点二は判例違反をいうが、原判決が所論引用の判例に反する判断をしているものとは認められず、所論は結局事実誤認の主張に帰し刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第二点は違憲をいうも、その実質は事実誤認、単なる刑訴法違反の主張をいでず刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人曽木隆輝の弁護人西野陸奥太郎の上告趣意は判例違反をいうが、記録によると第一審判決は、被告人に対する昭和二九年一一月一日付起訴状記載の公訴事実第二の一、二のうち昭和二八年六月二日、同月一九日、七月八日、九月上旬における旅館「まつもと」での天洋建設株式会社役員松元道生、地福馨等よりの各収賄の点について、結局自己の職務に関し供与されるものであるとの認識や饗応を受ける意思即ち犯意について証明がないことを理由に無罪を言渡したものであるところ、これに対し検察官より控訴の申立があり、原審は自ら事実の取調として、検察官申請に係る証人地福馨、松元道生等五名を取調べたものであつて、それら証人はいずれも右犯意の点を主要な争点とする各公訴事実につき、犯罪の成否を決する上に関係を有すべき証人であることが認められる。従って、原審での事実の取調の結果が、争点に直接触れるところにおいて第一審で取調べた証拠以上に出ないとしても、右事実取調の結果と訴訟記録及び第一審で取調べた証拠と相俟って被告事件につき判決をするに熟している場合、控訴裁判所が破棄自判し、有罪の判決をすることは所論引用の判例に何等違反するところはない(昭和三二年三月一五日第二小法廷判決、刑集一一巻三号一〇八五頁以下、同三四年五月二二日同法廷判決、刑集一三巻五号七七三頁以下各参照)。よって所論は採るを得ない。

被告人小城直哉の弁護人佐藤通吉の上告趣意は事実誤認、単なる法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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